必死に体を捩るが、『松谷くん』の容姿からは想像もできない力で押さえ付けられる。

「ぐっ……!」
 
埃が俺の体の中に入り込んだせいで、うまく力が入らない。

「残念。逃げられないよ。逃げてはいけない、お前が犯した罪からは」

今までになく、低いだみ声で静かに叫んでいる。

ゆっくりと、ペンチが振りかぶられた。

ゴツ

「ぐあっ!……あっ……!」

鈍い音と共に、鋭い痛みが腕に走った。

視界に星が散り、痛みが回る殴られた右腕の感覚が消えていく。

動かそうとしても、力がどこかに吸い取られるようにぴくりともしない。

「お前は……何者、なんだ」

水気の無い、掠れた声で問う。

「……まだ、気付かないんだね」

怒りに満ちた、引きつった笑顔が張り付き、彼が振り上げていたペンチが力なく降りてゆく。


それと同時に首も垂れ、栗色の髪が、さらりと顔を隠した。

「流石最低」

「自分が行ったことは、死ぬまで纏わりつくからね」

その声のトーン、雰囲気、言葉にある人物が重なる。

「お前まさか、ま……!」

ガシャン

俺がその名を口にするのを遮るかのように、ペンチを床に叩き付けた。

「そうだ、俺は松谷明だよ」




「先生」

 


 
さよなら、と呟くと今度こそ、ペンチを振り下ろした。