「あれ?おかしいな、ここが約束の場所のはずなのに……」
どこかわざとらしく、スマホを見ている。
やはり、今日の花奈はどこかおかしい。
「……あの、やっぱり、俺、クビっすかね?」
我慢できず、一番知りたかったことを思い切って聞いた。
夏の日差しによる暑さと、緊張による汗が喉仏を伝う。
花奈は、涼しげに微笑み、こう答えた。
「クビにはしませんよ」
は……?
「ほ、本当ですか!?」
良かった。
舞い上がって舞い上がって、世界が輝いて見えた。
1人で喜んで、ふと、花奈を見て鳥肌がたつ。
唇がゆっくりと、異様な曲がり方をしたのだ。
何か、闇を抱えているような。
「彼女、来ないですねぇ」
突然声を出すので、ずっと見ていて不快に思われたのかと、心臓と共に体が跳ねた。
「もう少し、待ってみましょうよ!何か外せない用事でもあったかもしれないですし」
焦り気味に言葉を紡ぐ。
すると花奈は、やけに高い声で話を始めた。
「じゃあ、お話しません?私、伊達さんと話したいことがあるんですよねぇ」
粘つく話し方も、気に障った。
「へ、へぇ、興味深いですね、どうぞ、話してください」
「3つあるんでぇ、1つ目からいきますね」
奇妙すぎる。
心臓が早鐘を打ち、溢れ出す汗は止まりそうもない。
「はい、どうぞ?は、話してくださいな」
「奥さん、おられるんですよね?」
オーラの割には無難な話題で胸を撫でおろした。
「えぇ、まぁ……他界しましたけどね」
本当に、美人だった。
美奈も。
真奈によく似て、勤勉で、才色兼備で、だけど少しキツくて。
「知ってます」
知ってます?
自分の耳がおかしくなったんじゃないかと、疑う。
「美奈さん、ですよね」
どうしてそれを……!?
血の気が引くのをしっかりと感じた。
「中々のお嬢様だったとか。それで、伊達さん、婿養子になって、伊達財閥の名前を使ってかなりのことをしたそうですね」