心に穴が開いたように、やるせなさで外をほっつき歩いた。

夏特有の、重く湿った、生温い夜風が俺に付きまとう。

鈍く光る月が俺を戒めているようで、居心地が悪かった。

悪いのは、あの女客だろ。

急に泣き出したりするから。

……22時、か。
 
スマホの弱い光に照らされ、そろそろ帰るか、と思う。

さあ、真奈にどうやって言い訳しようか。

母親似のキツイ口調ではあるが、家族想いの良い子だ。

だらしない俺の代わりに家事全般をこなし、成績も優秀。

母親が死んだのにも関わらず、よく頑張っていると思う。

俺とは大違いだ。

無駄に正義感が強いから、下手なことをすれ倍返しを食らう。

そういうところも、母親似だ。

大きくため息をつき、ゆっくり足を動かした。

***

「ただいまー」

「おかえり」

「……」

あれから、一つも良い言い訳が思い浮かばなかった。

これは、あの奥義を、使わざるを得ない。

奥義、部屋籠もり。

真奈が来たって、無視だ。

言い訳が思いつくまで。

取り敢えず、真奈にばれないよう、こっそりと自室に籠もった。

……クビにならないよう防ぐ、一か八かの方法は、ある。

俺には誰もが逆らえないような、強力な切り札を持っているからだ。

しかし、それも効果を発揮するかどうか。

俺だって男だ、やってやるぜ、一か八か。

やけくそぎみにスマホを見ると、花奈からメッセージが入っていた。

『大事なお話があります。明日、スーツで必ず来てください』