続けようとした言葉を一瞬にして粉砕させたのは、女客の顔が崩れたからだ。

ばっちりとメイクをしているせいか、涙がマスカラと共に流れ落ち、筋をつくる。

頬の赤みは全体へと広がり、鼻はぐすぐすだ。

はあはあ、と、動揺と困惑から、走ったこともあり、息があがる。
 
……どうして急に泣き出したんだ?

「あ、あの、す、すみません、勝、手にこんなとこ、連れ込んでっ。で、も、どうされたんですか……?」

その女客は、俺が質問すると、しゃくり上げ始めた。

緩くカールされた茶髪と、独特なデザインの服から覗く丸みを帯びた肩が小さく震える。

その様子を見た俺は、更に焦り、冷たい汗が湧いた。

……おいおい、一体どうしたんだよ。

俺がどうすれば良いか分からず、ただ冷たい汗を流し、泣いている理由を聞くことしかできないでいると、バン、とバックヤードのドアが開かれた。

……ヤバイ!

そんなことを思っても、もう遅い。

花奈で無いことを願いながら、ドアを開いた人物の顔を確認するため、恐る恐る振り返った。

その人物を認識した瞬間、俺は天を仰ぎかけた。

……終わった。

あからさまに落ち込むのも癪だったので、敢えて皮肉な笑みを作った。

無論、自分への。

この絶望感は、一度同じ様なものを味わったことがある。

ぱっちりとした二重、さらさらで、栗色の髪、華奢で小柄な体。

咳き込む音と、埃臭さがリアルに蘇った。

「……伊達さん」

その声は、誰もが凍り付くように冷たかった。

今までに見聞きした、彼女のすべてが温かかったと思えるまでに。

「今すぐお帰りください」

瞳には、グツグツと煮えたぎるような熱を持った光が走り、俺に向けられた視線はただひたすら紅く、熱かった。

……俺、絶対クビだよな。

こんなに早く終わると思ってもみなく、ショックでまだ現実感が沸かない。

……最悪だ。

俺は皮肉の笑みを崩さぬまま、彼女の横を通り過ぎ、パタン、と優しくドアを押した。