「おはようございます!」

新しい制服がどことなく浮いて、落ち着かない。
 
「似合ってるじゃないですか〜」 

ガッツリ二重顎の、40代くらいのおばさんが甲高い声を響かせる。 

「本当ですか?」

「ええ!この綺麗なお花ともばっちりだわ!」

このおばさんが話す度、更年期太り、というのか。

腹が揺れて揺れて気になる。

「あなたも綺麗ですよ」

そんな、漫画のようなセリフを適当に吐くと、いとも簡単に頬を紅潮させた。

ちょろい。  

「うちの従業員を誑かさないでください」

女には珍しい凛とした、芯のある声が背後に響いた。

「もうそろそろ開店の時間です。準備してください」
 
確か、名前は高橋花奈(たかはしかな)、だったか。  

流石は店長、統率力が違う。

この童顔にそぐわない、リーダーシップ、そして、精神年齢があるらしい。

「伊達さんは今日初めてなので、まずは雑用からです。取り敢えず今日は、掃除をしてください」

ほうきをちりとりを差し出された。

もっと、前に出る仕事かと思ったのに、萎えるな。

「早く取ってください。私にも仕事があります」

「へーへー、分かりました」

適当に返事をし、乱暴にそれらを毟り取った。

「な、何ですか、その態度」
  
むっ、としたように言い返された。 

その言い方は、さっきの統率力は欠片も見えないような幼さだった。

「別に。花奈さんの近くで働けなくて、残念だなぁって」

ニヤリ、と上から妖艶な笑みを押し付ける。

「ソウデスカ、ソレハトテモザンネンデス。気軽に下の名前で呼ばないでください。つい最近、会ったばかりでしょう」

揺らがない瞳の輝き、姿勢、視線。

益々自分のものにしたくなってきた。

「とにかく、節度のある態度を取ってください。それでは、お互い仕事に入りましょう」

最後まで、石のような表情を和らげることなく、別れた。 

くそっ、次こそは。 

ペロリ、と曲がった唇を舌でなぞった。