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「嘘ですよ。ダズさまが贈ってくださったお召しものを着ているんです。脱がして貰いたくて」
欠けた月が浮かぶ夜だった。
時折、猫のように細い月を、雲が覆い隠す。
侍女に用意してもらった媚薬をテーブルに用意して、私は天蓋ベッドの真ん中に座って、入り口付近で傅くダズ様を待った。
今頃、扉をリンスロット卿が中から開かないように補強してくれている頃だ。
散々逃げて二週間も初夜を迎えていない。
逃げる彼をからかうのは楽しかったが、反面自分に魅力が無いことに傷ついていた。
「私が扇で頭を叩いたことを怒っていますか?」
「いえ。感謝していますが、怒るなんて」
「では、テーブルに置いてある媚薬を食べて、私に今日こそ触れて下さい」
「姫……っ」
「無理ならば、私は貴方に行き先も告げずに修道院へ入ります」
そんなことしたら、兄たちと父が卒倒してしまう。だけど、彼を動かすには、それしかなかった。
彼は私に一礼してから、テーブルに近づく。
すると小さく笑った。
カーテンの隙間から見ると、彼は屈託ない笑顔で、媚薬を指先で掴んでいる。



