私の十歳年上の旦那様は、冷徹で誰も愛さないような孤高の狼を彷彿させる、恐怖の塊のような人でした。

 私との初夜で、私に扇子を脳髄に叩きつけられる前までは。

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 私の父は、ダリア国十七代皇帝、母は皇后、母が全て同じ四人の兄を持つ末っ子皇女。私を可愛がってくれる兄たちは近隣の国の皇女たちと結婚していたり婚約していて、近隣との交流も順調で、ここ数百年は戦争も起きていない平和な国。

 平和過ぎる中で、およそ10年前、唯一の皇女である私の誘拐事件があった。

 犯人は出世を目論む男爵家。広大な土地を持ち、皇族が好んで飲む高級茶葉を栽培しているので、裕福。裕福だが、爵位が低いのと田舎者だと回りから評価されないことに強い劣等感を抱いているのが原因で今回の事件を起こしたらしい。

 誘拐した自分たちで誘拐された私を助け、自作自演し、皇帝に自分たちの娘を皇紀にしてもらおうと計画した、まあ平和だから故に起こった爵位の低い家の計略。戦争もなく、貴族派と皇帝派閥にも亀裂もはなければ、自分たちが出世するチャンスは、狭き道。出世したい血の気の多い貴族もたまにはいるということだ。