【完】片手間にキスをしないで



「俺はずっと、奈央を探してた」

「……え」

「また、いっしょに遊んでほしくて」


自分に向けられた〝遊び〟とは意味が違うことを、夏杏耶はすぐに悟った。彼の瞳が、今までになく鋭かったから。


「奈央クンは、もう、しないよ」

「あれ……ほんと鋭いね。夏杏耶ちゃん」


人差し指で、顎をツンとなぞられる。


「でもさ、ようやく見つけたんだよ? 前、花谷通り(この辺)でさ。夏杏耶ちゃん捕まえたとき」

「奈央クンが、助けに来てくれたから……」

「そうそう。あれはビックリした。夏杏耶ちゃんがいるとさ、奈央は獰猛(どうもう)になるんだよ」

「獰猛、なんかじゃない」


なぞられた指を退けると、彼は乾いた笑みを零した。


「自覚してないのかぁ。ま、いいや。俺がもう一度奈央と〝組みたい〟のは、ただ遊びたいだけじゃないから」