【完】片手間にキスをしないで



噂が噂を呼び、まるでコンサート会場と化した柔剣道場。


あんなにもガヤ(主に女子)が集まるなんて、後にも先にもないと思った。



「静くんも強かったよ」

「……何言ってるの。開始数秒で手付かせたくせに……」

「よくも悪くも、静くんは形にはまりすぎなんだよ。ほらきっと、喧嘩とかしたことないんじゃない?」


いくら試合慣れしていても、規則性のない鮎世の動きには苦戦を強いたらしい。……それとも、規格外に彼が強いのか。


───『悪い泉沢……守ってやれなくて』


悔しそうに、キリキリと歯を噛みしめていた静の表情を思い出す。なんだかこっちまで、胸が痛かった。



「あんまり静のこと、バカにしないでよ」

「バカにしてるように思う? 心外だなぁ」

「いくら奈央クンの友だちでも、許さないから」


タルトタタンを食べ終えた口で、ゴクッ、と一息にカフェラテを呷る。なんとなく、しっかり味わう時間は彼のためにとっておきたかったんだ。