【完】片手間にキスをしないで



「まさに『うさぎの休息』だね」

「……は?」

「この店の名前だよ。今の夏杏耶ちゃんにぴったりじゃない?」


紅茶を嗜みながら言う彼に、思わず眉間を狭める。


……どうして鮎世が、訳せちゃうのよ。


「私はうさぎじゃないし、今は休息でもなんでもないもん……本当は奈央クンと来たかったんだし」

「でも仕方ないよね。空手部の主将に勝っちゃったから」


やんわり浮かぶ笑みに、少し前までは慄いていたのだけど、今ではただただ憎たらしいのみ。


まさか……静が賭けに負けてしまうとは、思ってもみなかったから。



───『じゃあ、俺が静くんに勝ったら、夏杏耶ちゃん遊んでくれる? 部活のあと、一緒に』


転校してきた日から約2週間。


彼は相変わらず夏杏耶につきまとい、ついには『静に勝ったら』なんて言い出した。


『えっ、うそ……春永くんと若槻くんが?!』

『てゆーか、春永くんって空手部なの?え、どゆこと?』

『ドリームマッチでしょう、こんなの……!!』