【完】片手間にキスをしないで



 ◇


進路希望調査───あの日、踏んづけてしまった紙にはそう書かれていたことを、今になって思い出す。


それと、ラッキースケベ……巷で聞いた言葉の意味が、よく、よく、理解できた。


───『……いや。やっぱり風呂入れ』


と、実はすぐに退かされてしまったのだけど、あの一瞬は本当に幸せそのものだった。



「夏杏耶ちゃん、クリーム」

「……え?」

「口、ついてるよ」


……でも、ごめんなさい奈央クン。


忠告されたのにも関わらず、目の前には鮎世が居た。これも、不可抗力と言えば不可抗力だ。


「おいしい?ケーキ」

「……ケーキは、美味しいですけど、」

「えぇ、敬語やめてよ。今は同級生(タメ)なんだし」


夏杏耶は何も言い返せずに周りを見渡す。


アンティーク調の店内。柱時計は19時前を示し、イートインスペースはそろそろお開きのよう。


Repos de Lapin(ルポ・ド・ラパン)


この場所は、奈央がルビをふってくれた例のカフェだった。