【完】片手間にキスをしないで



「行動も変だし、ピアスも開けすぎだし……あと、すごく強いでしょ」

「ああ。強ぇよ」


座椅子しかなかったリビングに、夏杏耶が用意した小ぶりなテーブル。


彼はすっかり慣れた様子で肘を立てる。反対側で、髪をクシャッと拭いながら。


「あいつ……あんま近寄らせんなよ」


あと、不機嫌そうに視線を流しながら。


「奈央クン?」

「……終わったんなら早く風呂入れ」

「でもいま、」


なんだか少し、やきもち妬いてるみたいだったけど……。


そう、心の内で呟くだけ。夏杏耶は途中で言い淀んだ。だって、あまりにも都合のよすぎる解釈だったから。


……奈央クンが、私にやきもち?ないない、ありえない。


彼がこのテーブルを気に入ってくれているように見えるのも、きっと気のせいだ。


でも、持ってきて本当によかった。奈央クンの生活の一部に、加われたみたいで。……なんて、呆けていたから。


「へ……」


床に据えた足元に、紙が落ちていたことに気が付かなかったんだ。