【完】片手間にキスをしないで



ショートケーキのクリームだけを、舌の先で転がされたような───諸々寸止めのキスをされたあの日から、どうにも欲が()だって仕方ない。


もう……しないのかな。


「で……何が訊きたいんだよ。結局」

「……え?」

「鮎世のこと」

「あ、ああ……」


夏杏耶はしまった、と放心を解いて、1日の出来事を思い返した。


「うちのクラスに転入してきたんだけど……とにかく、本当に散々だったよ……」

「は……夏杏耶のクラス?」

「うん……妙に引っ付かれちゃって……それに、なんか怖いんだ。あの人」


女子なら他にも大勢いるのに、どうして私のところに───そうため息を吐いた数は、きっと両手じゃ収まらない。


移動教室や休み時間、部活までの合間……お手洗いと更衣室を除けば、ほとんど後ろを付いて歩かれていた気がする。