【完】片手間にキスをしないで



 ◇


「ねぇ、奈央クン……どうしてあの人と仲良いの……?」


初日と言えど、すでに鮎世の鬱陶しさに耐え兼ねた夏杏耶は、風呂上がりの奈央を捕まえて訊ねた。


「あの人って……ああ……あいつか」

「その、あいつです」


タオルで大雑把に滴を飛ばしながら、彼は隣の座椅子に腰を下ろす。夏杏耶はソソッ、とこっそり距離を縮めた。


薄地のシャツから覗く鎖骨と、いつもは前髪に隠された額に、胸がキュゥッと締め付けられる。


水も滴るって、まさにこのこと。シャンプーの匂いも相まってもう、誘惑過多だ。


「今はもうつるんでねぇし、仲も良くない。現に高校入ってから今まで、一度も会ってないしな……つーか夏杏耶、近い」

「ご、ごめん……」


蜜に誘われた昆虫みたいだ、と自分を省みながら、彼に触れる寸前の手を引っ込めた。