【完】片手間にキスをしないで



「へぇ……いい腕っぷし。君だれ?」


ククッ、と上下する鮎世の喉元。夏杏耶は離れた体温に安堵しながら、2人を交互に見据えた。


「俺は空手部部長、若槻 静。大事な部員もっていかれちゃ困んだよ」

「部員……? 夏杏耶ちゃん、空手部なの?」

「おう、重要な戦力だ。……つーか、易々と名前呼んでんじゃねぇよ……」

「うん?」

「なんでもない」


何……? 何て言ったの?


途中、細々と放たれた静の声に、夏杏耶は首を捻った。そして、次の瞬間。


「でもそっか……空手、ねぇ」

「い゛っ、?!」


2人の立ち位置はまさに、形勢逆転───瞬きをした隙に鮎世は静の手首をひねり、腰の後ろに固定する。


刑事もののドラマでよく見るような光景に、周りはドッと沸き上がった。


「静……?! ちょっと鮎世っ、何を……」

「うん……俺、言わなかったっけ。『弱い雄が嫌い』って」