そのはずなのに───
「夏杏耶ちゃーん」
次に顔を持ち上げたとき、正面に居たのは静ではなくて。
「えっ……へ?」
再びフードを被り直した鮎世が、目の前で小首を傾げていた。
「えぇ。かわいい驚き方」
机にちょこんと手を添えて覗き込む様は、まさにあざといを体現しているし。数秒でアイドル化した転校生のせいで、クラス中の視線が刺さってる。
夏杏耶は染めあがっていく頬を、両手で覆い隠した。
もしかして、これもあざとい?……いやでも、今はみんなに見られる方が恥ずかしい……っ。
「な、なに?なんでしょうか……?!」
「夏杏耶ちゃんさ、今日の放課後ヒマ?」
「……放課後?」
「そうそう、放課後」
ね、どう?───言いながら、頬に添えた手を握られる。でも、それはほんの一瞬で。
「悪いけど、放課後は無理。だろ?泉沢」
後ろで一部始終を眺めていた静が、鮎世の手首を掴みあげた。



