【完】片手間にキスをしないで



「春永くん、ピアス何個空いてるの? 」

「落とした女子の数だけ開けてるんだ。数えてみる?」

「えぇっ、なにそれぇ!てか『好きなものは女の子』って本気?」

「うん。可愛い子はとくに。だからこのクラスでラッキーかも、俺」

「も~~、調子良すぎっ」


うーん……あれだけ万人受けする顔だと、節操ない台詞もウケるんだなぁ……。てゆーか、美々までいつの間に。


黄色い声に囲まれた鮎世を、夏杏耶はじとっと見据えた。


「奈央クンの方がかっこいいのに……」

「お前の趣味はコアなんだよ」

「そんなこと……まぁ、それでもいいけど」


だって……奈央クンのカッコいいところは、私だけが分かっていればいい。


「あんま拗ねんなって」

「別に、拗ねてないよ。……静こそ、もう怒ってないの?」

「ああ。寝坊して朝練ぶちったこと?」

「ご、ごめんなさいぃ……」


あ……やっぱり怒ってるじゃん。


ばつが悪くなった夏杏耶は机に伏して、彼に首を垂れた。