【完】片手間にキスをしないで






春永 鮎世───なんて麗らかな名前だろう、と思えた。きっと、節操ない言動さえなければ。


「好きなものは女の子。嫌いなものは弱い雄です。よろしく」


にこり。チョークの粉を払いながら持ち上がる口角に、クラスの女子たちは目を奪われる。


「ねぇ。何あの国宝級のイケメン」


それは前の席の美々も同じで。振り返り放った彼女の瞳は、活気に満ち溢れていた。


「イケメンって……美々の彼氏もかっこいいじゃん」

「いやー別格でしょう。しかもネチネチしてなさそうだし、私好き系~」

「正直すぎる気もするけど……」


何あの自己紹介、と夏杏耶は眉をひそめる。


彼は指示された通りど真ん中の席に着いて、休み時間に入るや否や囲まれていた。主に女子に。



「すげぇなアレ。転校初日からアイドルじゃんか」


隣の席で頬杖を突く静に、夏杏耶は苦笑した。


確かに、あれじゃあアイドルと相違ない。派手な見た目のせいで避けられるばかりと思っていたけど……。