【完】片手間にキスをしないで



唐突に頬へ伸びる、アユセの左手。


「えっ……」


触れなかったのは、奈央がその腕を捻り上げていたからで。


夏杏耶は気が付くのと同時、絡み合う2人の視線に身を震わせた。


この眼力のぶつかり合い……知り合い以外の何物でもないでしょう……。


「なんでうちのブレザー着てんだよお前」

「あ。気付いた? てゆーか痛い。痛いから放してー」

「チャラチャラしやがって……」

「うーん。それ嫌いだからさ、『節操ない』って言ってよ」

「同義だ。阿呆」


いてて、と肩から腕を摩るアユセは、確かに同じブレザーを羽織っていて。夏杏耶は「ま、まさか」と目を見開いた。


「えっ、うちの生徒、だったんですか……?」

「ははっ、違うよ。同じ学校なら、俺ぜったい奈央とべったりだもん」

「えぇ……あの、本当に2人は……」


どういうご関係で───続けようとした瞬間、校舎の合間から風が押し寄せる。


アユセの黒フードが後ろに倒れたのはたぶん、その反動だ。