【完】片手間にキスをしないで



淡々と紡ぐ彼に、夏杏耶は目を丸くする。


「すごい、え……読めるの?!」

「……製菓やろうとしてるやつが、多少の言語読めなくてどうすんだよ」


手の甲で口元を覆いながら、視線を逸らす奈央。途端、耳から首筋までみるみる赤くなる様に、喉がクゥンと疼いた。


「~~ッ、奈央クン!今度ぜったい一緒に行こうね!」

「おまっ……引っ付くなよばか」

「そっか。うまく走れないもんね」

「……そうじゃねぇ」


やっぱりバカだな、と幻聴が聞こえたのは、学校の門が見え始めたころ。


8時35分───よしっ、これなら朝礼には間に合いそう。


だけど、朝練に出られなかった件は、部長の静にたんまり説教されそうだ。



「あれれー。もしかして、奈央と子ウサギちゃん?」


始業寸前。校舎へ駆けこむ生徒が多いなか、飄々と立ち尽くす影。どこかで見覚えのある風体。


奈央とともに立ち止まったのは、門をくぐった後だった。