【完】片手間にキスをしないで



 ◇


「おーっ、なんだ? 今日は仲良く揃って登校かぁー?」

「あっ、鮫島さん!おはようございます!」


猛スピードで階段を下りた先。クァッ、と伸びをしながら、普段は夜型の大将がヒラヒラ手を振っている。


そっか、今日は仕込みのパートさんがお休みの日か……と思い伏せながら、夏杏耶はカバンを背負い直した。


「いってきま〜す!」

「いってきます」

「おう、気をつけてなぁ!」


遅刻ギリギリ……ッ。


鮫島の声に背を押され、アスファルトを踏みしめる。これでも結構、焦ってる。……でも、


「奈央クン、今日いい天気だね……!」


2人で登校するのははじめてで、高揚が隠せないのも事実。


「前見ろ、転ぶぞ」

「ふふっ、いつも一緒に登校できたらいいのになぁ」

「それはやんねぇって言ったろ」

「……はぁい」


分厚い伊達メガネを拵えながら言う彼に、夏杏耶は渋々頷いた。