【完】片手間にキスをしないで



───『もう足洗ったんだよ、俺は』


言いながら、過去を遠ざけるように。彼が知り合いのいないこの高校を選んだ理由も、分かってる。


彼が中学の頃───


暴力を盾にして輩とつるんでいたことなんて、この2人はもちろん知らないわけだけど。


「一匹狼だけど……かっこいいよ、奈央クンは」


言えないのがもどかしい。


息を潜めるように学校生活を送る彼が、どれほど悩んで此処へ入学を決めたのかってことも。本当は、優しい人だってことも。


「あ……ごめんごめん。拗ねないで、カーヤちゃん」

「べつに、拗ねてないもん」

「分かった。分かったよ。じゃあ、私も協力するから」

「え?」

「いっしょにさ、冬原先輩の秘めゴトを暴こうじゃないか」


本当に拗ねていたわけじゃないんだけど……。棚から牡丹餅、この機を逃すわけにはいかない。


普段なら絶対「めんどくさーい」と言いながら巧くかわすのが彼女の定石だからだ。


夏杏耶は目を輝かせて、頷いた。