「あれ、静。おはよ。HRギリギリじゃん」
「ちょっと顧問に呼ばれててな。遅くなった」
「さすがエース。部長もやってんだっけ?」
「まーな」
美々の問いに答えたあと、あちぃ、と顔を扇ぎながら座る静。
部の長が同じクラスで、かつ隣の席って、何かと便利なんだよなぁ。
夏杏耶は自分の強運に感謝しながら、「それより」と話を戻した。
「私って健気なの?」
尋ねると、この席を囲う2人は大きく頷く。
「無愛想な一匹狼に、よく堂々とアタックしていけるよねぇ。あ、これ褒め言葉だから」
「あの人、同級生のなかでも孤立してるらしいしな。まさに一匹狼」
そして、交互にそう続けた。
奈央クンって、そんなに無愛想かな……?
とは思うものの、2人の言う彼の通称・一匹狼は、あながち間違いではない。
彼は中学を卒業するのと同時に、上げていた前髪を下して、分厚い黒縁眼鏡を身に着けた。周りと、壁を作るために。



