春永鮎世───華々しいその名前を、煩わしく思うときが確かにあった。
『あれ、転校生さ、やっぱオカマっぽくね?』
『えぇー言っても普通だろ。でも名前に魚は変だよなぁ』
『つーか顔。顔も女っぽい。背は高いけど』
『ちょっとお前、話して確かめて来いよ。転校生だし1人で可哀そう……あ!いま内股になった!』
『うるせぇな……つか、俺らが行かなくても女子が話しかけに言ってんじゃん』
『それもそうだな。お役ゴメンってやつ?』
はじめて転校を経験した小5の夏。夏休み前。最初はこの程度のざわめきだったと思う。
ずっと下を向いていたから、そう会話をしていた相手の顔なんて覚えちゃいないけど、内股に気付かされてすぐに足を解いた。
『おい……俺らの声聞こえてんじゃん』
『まじかよ。気まずー……』
そんな些細なことが原因だったのか、そもそも引き入れる気などなかったのか。分かるわけもないけど、馴染まない街で過ごす夏休みは、ずっと1人だった。