「ねぇねぇ、シャンプー奈央クンのやつ使ってもいい?」
「なんでだよ。持ってきたんだろ、自分で」
「そうなんだけど……ね、いい?」
「……勝手にしろ」
訳が分からない、と言った様子で眉を寄せる奈央を置いて、夏杏耶はキャリーケースを広げる。
そういえば、どうしていきなり同居を許してくれたんだろう。あれほど嫌がっていたのに、わざわざ重たい荷物を運び入れて───
「まぁ、いっか……あ、」
身勝手に自己完結させた夏杏耶は、下着を取り出した反動で床に転がっていくボトルを追いかける。
女子の必需品。でも正直、男子の目には入れたくない代物。……いわゆる、制汗剤と呼ばれるそれに、慌てて手を伸ばした。
「よっ……と。ん?あれ、何だろう?」
段ボールの間を縫い、キッチンの方へ転がったボトルを、横着さながら這ったまま拾い上げる。と同時に、視界の端から覗いた本。ファンシーな背表紙。
唐突に目を引いた、そのカテゴリー違いとも思わしき存在へ、無意識に手を掛けた。



