【完】片手間にキスをしないで



奈央と夏杏耶は2人で荷を下ろしながら、ビール缶を傾ける絆奈のもとへ向かう。


次に住むアパートの手続き諸々の書類を代わりに揃えてくれる、という話だったからだ。


「飯食う前に酒ひっかけてんじゃねぇよ……つーか書類、今から夏杏耶が書くから」


早く寄越せ、と言わんばかりに手を差し出す奈央。夏杏耶は彼の後ろで、豪快なビールの飲みっぷりに密かに憧れを抱いた。


絆奈さんって、やっぱりカッコいい。


「あーそれねー……うん。とりあえず、無しで」

「え?」「は?」


カッコいいけれど、相変わらず自由奔放マイペースだ。


夏杏耶は声を重ねた奈央と視線を交わし、首を傾げる。


「だからね? 鮫島から『夏杏耶ちゃんの家を探してる』って聞いたときに、私から断ったのよ」


「……な……はぁ?」


ものの数秒で空になった缶をぶらぶらと掲げながら、絆奈は舌を出して奈央を挑発した。


「まぁとりあえずは、探したフリしといて、って」