【完】片手間にキスをしないで



「ね、だから夏杏耶ちゃん、引っ越し先教えてよ」

「教えてたまるかよ」

「奈央には訊いてないから」

「俺の許可なく訊くな」


仲がいいのか悪いのか。噛み合っているのかいないのか分からないけれど、とにかく息は合っている。


そんな相変わらずな2人を見て、夏杏耶は小さく笑った。


「そーだ。これから一緒に寄り道しない?ほら、前行ったカフェ。一緒にさ」


一方で、鮎世は未だ懲りずに空いている方の手を握る。隣で顔を引きつらせる奈央の表情を予感しながら、夏杏耶はゴクリと喉を鳴らした。


「は?カフェ?」

「うん。転校してすぐくらい、だったよね。夏杏耶ちゃん」

「……へぇ」


いつの間に、と言いたげな視線で、奈央は鮎世の手を剥がす。


そういえば、ちゃんと言ってなかったなぁ……。


「あれは、ほぼ罰ゲームというか……それより今日はダメ。荷造りの続きするんだから」


瞬間、ギュッ、と右手から伝う痛みが彼の独占欲なのだと、この時初めて実感した。