長い前髪の奥で見開いた、綺麗な瞳。……ほら、やっぱり知らなかったんだ。


「寸止め?」

「フルコンタクト」

「まじかよ……」


奈央は貼り終えた湿布のフィルムを丸めながら、珍しく目を泳がせる。


空手は空手でも、フルコンタクト。要は、実際に身体にバンバン当てまくる方の流派だと知って、動揺を隠しきれないらしい。


「いつから。つか、何でだよ」

「高校入ってすぐだよ。何でって、それは───」

「ハァ……力付けんのは勝手だけど、次ああいう奴らに会っても手出すなよ」


言い淀んだ夏杏耶を置いて、奈央はキィッと睨みを利かせた。


これはもしかして、心配してくれているんじゃ……。そう期待を寄せたのも束の間、額をコツンと突かれる。


「イテッ、」

「聞いてんのか、阿呆」

「聞いてます!ちゃんと、一言一句!」

「ならいい。……とりあえず、早く風呂入れ」


つーか、風呂入ったあとに貼った方が良かったかもな───と、言いながら去っていく背中に、キュンと胸が鳴いた。


だって奈央クンの口から「風呂に入れ」って……ご褒美すぎるんだもの。