【完】片手間にキスをしないで


夏杏耶は唇を噛みしめながら、「触れたい……!」と沸き上がる本能を懸命に堪えた。


「気づいてくれたの……嬉しい」

「素手であの蹴り防いだら、普通はこうなる」

「えっ、じゃあ最初から」

「当たり前だろ……大体、あれくらい自分で避けられた」


腫れた箇所に取り出した湿布を貼り付けながら、奈央は言う。


そう。たしかにその通り、元ヤンである母の影響か、彼自身も喧嘩は強い。だからといって、見過ごせるわけがなかった。


あのとき彼は、違うものに目を奪われていた気がしたから。


「つーか、夏杏耶」

「うん?」

「お前のあの蹴り、何?」

「何って?」

「悶えてただろ、食らってた奴。護身術でも習ったか?」


クスッと息を漏らしながら言う奈央に、夏杏耶は「あれ、知らなかったの?」と首を傾げる。


同時に、やっぱり私のこと興味ないんだ……と再び肩を落とした。


「奈央クン。私、空手部なんだよ」