「今まで後ろをついてきた口で……情けないこと言ってんじゃないよ」


怒鳴っているわけでもないのに、その言葉はどんな刃よりも鋭く思えた。


「くだらない理由……? お前の物差しだけで図るんじゃないよ。……ずっと信頼してきた、総長だろうが」


ああ───そうか。


擦れた特攻服の背を見据えながら、悠理は静かに息を落とす。


「……あんたのせいか」


奈央の言葉は、母親から繋がれてきたもの。あんたが居なければ、奈央に執着することはきっと無かった。


仲間とともに歩むことも、きっと無かった。


「ミドリ」


悠理は静かに『不倶戴天』の特攻服を剥ぎ、翠川に手渡した。


「……アタシ、愉しかったよ」



サイレンが近づく───


大好きな悲劇のヒロインの座は、どうしようもなくバカな娘に渡るのだろう……そう思うと、また心臓が疼いた。


それは、自分の狭い世界にも〝恋〟という不完全な感情が生きていたのだと知らせた。


───奈央……ボクは君を、忘れないよ。