きっかけなんてよく覚えていない。ただ、コンビニ帰りに声を掛けられた───たぶん、それくらい些細な事。
クラスメートでも、チームメイトでもない。入り浸らなくて済む、その着かず離れずの関係性が心地よかった。
「どうして分からないの……っ。どうして悠理は……!お兄ちゃんはあんなにいい子なのに!」
でも、両親はそれを良しとしなかった。学校という箱の中で好かれる兄を、良しとした。
「叩いてごめんね……でもね、お母さんとお父さん、あなたに幸せになってほしいだけなの。幸せに生きてほしいだけなのよ」
学校に居場所が無くても、家族に認められなくても、構わなかった。
ただ、決めつけられたくなかっただけ───
冬原奈央と出会ったのは、ヒステリックに陥った母親から逃げるように家を出た時。
「……悪い」
路地裏から返り血を拭うようにして出てきた彼と、衝突したのがきっかけだった。



