<悠理side>
聡明で温厚で、心優しい兄が居た。
庶民と通称されるのがふさわしい普通の家に育った少女は、個性という個性もなく育ち、優秀な兄が居ることだけがアイデンティティだった。
「新しい中学はどう?お友だちはできた?」
「別に」
「もう……ダメじゃない。お兄ちゃんみたいに皆と仲良くしないと」
だから、親の口癖にも特段腹を立てることもなかった。自分が劣等生だと分かっていたからだ。
ただ───そんな悠理にも、居場所はあった。
親の言う〝仲良く〟が、その場所を示していないことくらい分かっていたけれど、たった1つの居場所だった。
「悠理はほんと強ぇなー。高校に上がったらチーム引っ張れるんじゃね?」
「チームになんか入らないよ。アタシはここに居られれば別に」
「ふーん。勿体ねぇー」
夜の河川敷。雅王と呼ばれる暴走族の輩とつるみ始めたのは、中学1年の頃だった。



