傷ついてしまえばいいのに。奈央クンに与えた傷以上に、痛みを覚えて苦しめばいいのに。
そう思っていたのも事実。でも気が付けば、夏杏耶は絆奈を止めるように腕に手を掛けていた。
「夏杏耶ちゃん?」
「絆奈さん……ミャオは……この子は、たぶん───」
一瞬だけ言い淀んだのは、この場にふさわしくない感情が芽生えたから。
でも、伝えなければいけなかった。
「この子は、私と同じ……奈央クンを好きな〝女の子〟です」
途切れ途切れに紡いだ瞬間、余計に場が静まり返る。驚いていなかったのは兄である海理と、奈央だった。
「ハハハハッ、夏杏耶ちゃんって本当にバカだなァ。何が?どうしたらそう思えるわけ?頭んなか沸いて、」
「私が、奈央クンを好きだから」
被せて言うと、ミャオは身動きを封じられたまま眉を寄せる。
絆奈がいなければ噛みつかれていた、と間違いなく思えるほどの目つきに、夏杏耶は後ずさりたくなった。



