【完】片手間にキスをしないで



そして淡々と紡がれた言葉に、ミャオは飛びのいた。


「夏杏耶ちゃん、大丈夫?」

「鮎世……どうして絆奈さんが……」

「ちょうど帰ってきてたんだって。本当、ただの偶然」


2人の攻防を見据えながら、鮎世は奈央の身体を起こす。同時に夏杏耶の頬に手をのばし、優しく傷跡を摩った。


「あとでちゃんと、手当するから」

「……うん」

「……。傷ついてると、なんか余計可愛いな……」

「は?」


意味の分からない言葉に眉を寄せると、聴いていた奈央が鮎世の額を叩く。


「夏杏耶でろくでもない性癖晒すな」

「……ねぇ夏杏耶ちゃん。こんな暴力的な彼氏やめて、やっぱ俺にしない?」

「渡すか阿呆」

「うわ出た、むっつり独占欲」

「あぁ?」


場にそぐわない2人の会話に、夏杏耶は無意識に笑みを零す。鮎世のいつも通りに、きっと奈央も救われたのだと思えた。