【完】片手間にキスをしないで



「かあや……何もするな」

「……でも、」

「チッ。何度も邪魔なんだよブス」


奈央と夏杏耶を見下ろしたまま、ピアスをカリカリいじるミャオ。でも、とは言ったものの、その不気味な仕草を見上げて硬直する。


額から流れる彼の血を見て、途端に肩が震えた。


「俺は平気だ。あと、たぶんもうすぐ───」

「……?」


呑み込まれた言葉の先を聴く寸前だった。


ザッ、ザッ、ザッ───と、扉の方から揃った足音が響く。


「……んだ、この音」


ミャオが顔をしかめて振り向いた瞬間、夏杏耶は目に映るそのシルエットに、再び涙腺を緩ませた。


「夏杏耶ちゃん。ごめんね、遅くなって」


立っていたのは、フードを被ったまま微笑む鮎世ともう1人。


「うちのカワイイ娘に、何かしてくれちゃった?」

「……うそ……」


十数年前までここら一帯を統べていた、暴走族の元総長、冬原絆奈(はんな)───奈央の母親だった。