【完】片手間にキスをしないで



───「いやいやいや、ストップストップ」


パンパンパンッ、と乾いた音が部屋に響く。残り複数の黒服たちが直ったので、ミャオの令だとすぐにわかった。


「なに仲良く共闘してんの?うっざいなぁ」

「……」


距離を詰めるミャオを見かねて、奈央は夏杏耶を背に匿う。


ギリギリと鳴らされる不気味な歯ぎしりに、思わず肩がすくんだ。


「あー分かった分かった。じゃあ僕がやればいいのか」

「……何がだよ」

「うん。もう疲弊はしてるし、少し計算は狂ったけどまぁいいや。僕の目的は、これから達成されるんだから」


ヒュンッ───。


一瞬だった。


小柄な背丈が飛び跳ねて、信じられないほどの高さから下ろされる蹴り。


風を切るようなその音は〝直撃〟したあと、彼のうめき声へと変化して。


「……ッ」

「奈央クン……っ!?」


床に頭を打ち付けた姿を見て、体の先々にまで電流が走ったように錯覚した。


あの頃の記憶と、重なったからだ。