【完】片手間にキスをしないで



「ッつ……?!」


脛を狙った蹴りは見事急所にヒットしたらしい。


……下段もちゃんと練習しておいて良かった。ありがとうね、部長。


「……夏杏耶……?」


息のあがった肩に自分のそれを隣合わせながら、夏杏耶はコクリとうなずいた。


「私だって、奈央クンを守りたいんだよ」


ゆるく拳を握り、半身になって構える。試合ではこの瞬間が一番緊張するのに、今ではその糸も和らいでいた。


……たぶん、隣に彼がいるから。


「絶対、奈央クンの手は傷つけさせない」


夢に向かい励む真剣なまなざしを、もう知ってしまったから。


「……ばか」

「うん……大好き」


夏杏耶は微笑み、奈央に向って拳を振り上げる黒服に蹴りを入れる。女子にはないその的に、男は大層悶えた。


「お前、容赦ないな」

「余裕もないから」

「……だな」


言いながら奈央は夏杏耶の腕を引き、狙って下ろされた蹴りから遠ざける。そして、蹴りの主を今まで以上の強さで落とした。