【完】片手間にキスをしないで



見くびっていたわけではないけれど、華麗に持ち上がり振り下ろされる蹴りと肘をうまく使った護身に、夏杏耶は思わず喉を鳴らした。


「スゥッ……」


でも、限界がないわけじゃない。


ミャオの仲間はまだ数人いるのに対して、彼はひとり。倒れていく男の数と比例して、彼の息は荒くなっていく。


……当たり前だ。


今が何時かは分からないけど、体力だってきっと限界に近いはず。バイト着のままということは、そのまま駆けつけて来てくれたんだ。


「まだへばんないのー?もうちょいブランクあると思ったんだけどなァ」

「あぁ?……余裕だわ」


言葉とは裏腹、苦し紛れにミャオに答える奈央。フゥ、と脱力した後すぐに、黒服を器用に床へと滑らせる。


同時に肩が、苦しそうに上下する。


瞬間、後ろで伸びていたはずの男が1人立ち上がり、ゆらりと彼の背に影を落とした。


「奈央クン……無理だよ」

「ハ……?」


無意識だった。


夏杏耶は彼を襲おうとした黒服を、今度はたんまり力を込めて退けた。