【完】片手間にキスをしないで



否定することもできず視線を逸らすと、彼はそれを追いかけるように覗き込む。


「逃げるな、阿呆」

「だって……」

「夏杏耶」

「……?」

「ごめん」


そして、柔い微笑みとともに紡がれた言葉に、胸が強く締め付けられる。


奈央クンは何も悪くない……悪くないのに───


そう返そうとした言葉は、再び彼のぬくもりに溶かされる。温かくて、心地良くて。


「帰ったら、ちゃんと埋め合わせする」

「……うん」


〝帰ったら〟というセリフ一つに、ようやく涙の雨が止んだ。


「おい……何ぼうっと突っ立ってんだよ。引き剥がせ。そんで、奈央をやれ」

「「はい」」


声を震わせながら言うミャオの令に、低い声が連なる。同時に夏杏耶は一瞬で奈央の後ろに匿われた。


「悪い夏杏耶。少しだけ待ってろ」

「……奈央、クン……?」

「ちゃんと連れて帰るまで───ほら、目ぇ瞑っとけ」