【完】片手間にキスをしないで



呆然と立ち尽くすミャオを背に、奈央は冷静に手首の紐をほどく。解放された後もじんわりと痛む肩と喉元に、夏杏耶は現実を知らされた。


「ど、して……ここって、」

「いいよ……んなこと、今は知らなくていい」


ゆっくり起こされた後、体を丸ごと包み込む温かいぬくもり。首筋から滴る汗のにおい。小刻みに震える彼の腕。


背後にそびえる男の影など気に掛ける暇もなく、夏杏耶は彼の温度に酔いしれた。


ようやく、(かせ)が緩んだ。


「ふっ、うぅ……っ、なおく、奈央くん……奈央クン……」

「うん。そうそう、泣け。女の子だろ」

「それ……昔とおんなじ」

「ん?そうか?」

「うん……そ、だよ」


零れると、止ませる方法がどうだったかなんて忘れてしまう。


それほどに、頭を撫でる手が優しくて。控えめに締め付ける体温が朗らかで。


夏杏耶は視界を歪ませたまま、何度も彼の名前を呼んだ。