【完】片手間にキスをしないで



「イタ、っ」

「あーあー、大人しくしてよ。せっかく十字に作ってあげようとしてるのにさぁ」


頬の傷───そう続けられた言葉に、思わず唇をかみしめる。


感じた痛みは彫刻刀によって刻まれたせいだったのかと、ようやく気が付いた。


「まーいいかー。奈央にはもっと傷ついてもらうし」

「……は?」

「恋人である君を傷物にして、憔悴した奈央に追い打ち。単純で痛快で、僕の性に合ってる」


血の付いた彫刻刀を舐めた後、にやりと口角を持ち上げるミャオ。のぞき込まれた瞳に、吐き気がした。


「奈央クンが、いったい何をしたの……」

「あぁ?聴こえないんだけどォ。もっとでっかい声でしゃべってよ、夏杏耶ちゃん」


恐怖の代わりにこみ上げていた感情が、ついに沸点を超えた。


「あんたなんかに……私も奈央クンも、傷つけられたりしない……!!」


麻酔の切れた体。足も万全に、動く。そう、座ったまま、すべての体重をかけるようにして───


ドゴッ───!!


回し蹴りを、ミャオの頭にお見舞いした。