【完】片手間にキスをしないで




「あーあーあーあー、足りないなぁー」


電話を切った後、ブンッ、と海理へスマホを投げる。と思えば、再び瞬時に目の前に現れて、


「っ、」

「ねぇ……もっと愉しませてよ。奈央が来るまでさぁ」


長い指で夏杏耶の喉を静かになぞる。細く掠れた声が放たれたのは、その直後───


「……して」

「……え?」

「どうして、こんなのが───アタシの方が綺麗なのに」


途切れ途切れに紡がれる言葉。


いま……なんて……?


そう眉を顰めると、夏杏耶の頬にじわりとした痛みが走る。


「君が傷物になったら、奈央はどう思うだろうね」

「傷、物……?」

「僕は好きだよ……血も、傷物も」


ずっと黙っていた男たちの影が、ゆっくり傍に落とされる。触れられてもいないのに、虫唾が走る。


それを見据えながら微笑むミャオは、さらにもう一度、夏杏耶の頬に刃を滑らせた。