【完】片手間にキスをしないで



『誰だてめぇ』


そして、スピーカー越しに聴こえる声。奈央のものだと確信して、思わず喉を鳴らした。


「海理。替われ」

「……ああ」


そのスマホは目の前で卑しく微笑むミャオに渡る。スピーカーの向こうで、彼の息遣いがより鮮明に響いた。


「もしもしー? 聞こえてるよねぇ?」

『……ふざけてんのかてめぇ』

「訳もなくキレないでよ。僕、理由もなく怒られるの、嫌いなんだよねぇ」


瞬間、にやりと正面の口角が持ち上がるのと同時、首筋からツゥッと上になぞられる彫刻刀。


「やっ……ぅ」


冷たく鋭いその刃先に思わず上がる声。それを器用に拾ったのか、彼は電波の向こうで焦ったように息を荒げた。


『夏杏耶に何した』

「ハハハッ、勝手に決めつけないでよー。むかつくなぁ。大体、夏杏耶ちゃんがいるかどうかなんて、」

『いる』

「……あ?」

『俺が……夏杏耶の声を逃すわけねぇだろ』