【完】片手間にキスをしないで



途切れ途切れに紡がれる言葉。夏杏耶にも、身に覚えがあった。


意識が途切れる前に落とされた声は、海理のものであったのだと。


「どうして……場所は、どうやって」

「……」


海理は自分の腕を握りしめ、押し黙る。


その肩は小刻みに震えていて。それでも夏杏耶の内側は怒りに満ちた。同情の余地などなかった。


本当は、訊かずとも分かっていたから───親友を利用したのだ、と分かっていたからだ。


「美々から、訊いたんですよね」

「え……」

「美々はあの家を、知っています」

「ち、ちがう……美々ちゃんは……っ。俺が、彼女のスマホを使って、勝手に……」


歯切れ悪く放たれた言葉が、心の内側に爪を立てる。


「よかった」

「……え?」

「美々には何もしてないんですよね」

「して、ないよ……美々ちゃんは、何も知らない」


同時に、夏杏耶は安堵した。


でも───海理がばつが悪そうに俯くわけも、やけに〝弟〟の様子を気に掛けるわけも分からなかった。