【完】片手間にキスをしないで



 ◇


独特な刺激臭を覚え、重たい瞼を持ち上げる。冷たい床に横たわっていることが分かって、夏杏耶は瞬きを繰り返す。


「……い、ッ」


と、頬に鋭い痛みが走る。


すでに視線をあちこちに巡らせているはずなのに、一向にその痛みの正体は分からない。


「なに、コレ……」


身体を持ち上げるため床に手を突こうとしても、手は後ろ側で何かに縛られているらしく、動かない。


「……」


夏杏耶は脳にまで響く脈の音に冷や汗を併発させながら、ゆっくり深呼吸を済ませた。


数秒目を瞑って、もう一度開く。それを幾度か繰り返すと、少しずつ暗闇が薄れていく。


「教、室……?」


目を細めて視界を調整すると、大体の部屋の広さが分かってくる。


この床の感触はもちろん外ではないし、声が反響するようなところでもない。扉の配置を考えると、大体教室に近しいと分かる。


でも気になったのは、視界の先に見える〝イーゼル〟だった。