絶対、失いたくないと思った。
「……」
目立った傷跡を残したのは、あれが最初で最後だったように思う───なのに、どうして今まで気づくことが出来なかったのだろう。
「ミャオ……だったんだ」
『さめじま』の灯りが近づいた頃、湿度の多い夜空に呟く。
小柄で、華奢で、器量の良い顔立ち。ナイフのように鋭利な視線。中学時代、奈央に傷を与えたのは間違いなくあの男だ、と夏杏耶は確信した。
ピュウッ───
「っ、さむっ」
卵を片手に、裏口に踏み入れる寸前。細く冷たい風が背を撫でる。
少し薄着だったかな、と夏杏耶は腕を摩った。
───瞬間だった。
「……んぅっ?!」
後ろから、ハンカチのようなもので口が塞がれる。身に覚えのあるやり口と感触。学祭のときと全く同じ……つまり、ミャオの仲間。
普段は巡りの鈍い脳も、この時ばかりはうまく回った。
「んんっ……!!」
でもダメだ。もがいてももがいても、離れない。また、何もできないの?私はまた……。
そこで、夏杏耶の意識は途絶えた。
「ごめんね……カーヤちゃん」
どこかで聞き覚えのある、柔い声の記憶を残して。



