【完】片手間にキスをしないで



「……懐かしい」


恋に落ちてしまった、という事実にすぐにはたどり着かなかったけれど───今も変わらないぬくもりを、あの時にはとっくに独占したいと思っていた。


小学生でまだ可愛げがあったからいいものの、翌日から付きまとって離れない、なんて……。


そんな怖いもの知らずだった頃。案外、恋を自覚するまでには時間がかかった。


西名の一件があってから、どこか臆病になっていたのかもしれない。


でもあの日の出来事は、不安もトラウマも凌駕して、ずっと彼の傍に居たいと願う気持ちを気付かせた。



───『奈央。僕はきみを忘れない』



綺麗で虚ろで、刺さるような視線。のされ、倒れている奈央を見下す黒い影。


駆け寄った夏杏耶は、一目もくれずその場を去って行った〝男〟の背を見据えたあと、切れた彼の唇を拭った。


───『もう……傷つかないで。お願い』


初めてだった。地面に伸びて、目を閉じている彼を見たのは初めてで。同時に、恋を自覚した。