【完】片手間にキスをしないで



……そうだ。昔、駄菓子屋で……。やばい、なんでだろう……なんか今、泣きそうだ。


「大将ー、ボトルワインってどこすかー?あと卵も」

「あー……悪い。外の倉庫だったかな。見て来てくれる?」

「了解っすー」


カラカラカラッ───。


涙で視界が滲む寸前、覗いていた隙間が大きく開かれる。夏杏耶は声すら上げず、ただ目を見開いた。


え、嘘……いやでも、奈央クンじゃない……。


「……こんばんは?」

「こ、こんばんはっ」


夏杏耶は裏口から身を引いて、横に捌ける。


どうやら倉庫に用のあるらしい青年は、こちらに目配せしながらクスッ、と笑みを漏らす。彼は少しだけ、煙草の匂いがした。


「もしかして、冬原くんの?」

「……え、えっと、」

「いいよ。覗いてたことは黙っててあげる」

「すみません……っ」


大学生なのか、対人スキルの高そうな彼は、倉庫をまさぐりながら眉を顰める。そして数秒後、「あ」と声をあげて夏杏耶に視線を流した。


「卵、買って来れたりする?」