【完】片手間にキスをしないで



 ◇


午後7時前。夏杏耶は家路を辿りながら、パタパタと顔を扇ぐ。


「あつい……」


直後、その指で数えた。夏休みまでの期間を、何度も折って数えた。


……あと4日。せっかく彼の胸中を知れたというのに、甘い時間を過ごすにはあまりにも期限が早すぎる。


同居がなくなっても、恋人でいられなくなるわけじゃない───


それなのに、虚無感は消えてなくならない。だって、きっと、あと半年もしたら奈央クンはもっと遠くに行ってしまうかもしれないから。


「早く、大人になりたい」


ネオンが蔓延る街を見据えながら、無意識に刻まれる言葉。


大人になれば、法律にも進路にも邪魔されなくて済む。代償が何であれ、彼の傍を離れなくて済むのなら……乗り越えられちゃうんだろうなぁ。


「ふふ……」


夏杏耶はそう息を漏らしながら、居酒屋『さめじま』の提灯を目印にゆらゆら進む。


……今日もバイトかな。ちょっと、覗いてみようかな。