【完】片手間にキスをしないで



───でも、やっぱり惜しかったかな……。


男2人を背後に先導しながら、夏杏耶は息をつく。


「夏杏耶ちゃん、なんかますます逞しくなってない?てゆーか、何があったのさ。ふたり」

「何がってなんだよ」

「昨日までと空気違うじゃん。付け入る隙が無い」

「……。今までも、与えてたつもりはない」

「ふぅん。……まぁ、別に聞きたくなんてないけど」

「どっちだよ」

「それより、奈央には感謝して欲しいくらいだね」

「は?」

「俺なりに警戒してたってこと───」


少しずつ、同じ制服が増えていく。夏ボケで浮足立つ生徒たちの会話が、2人の会話に重ねられていく。


だから夏杏耶は、鮎世が放った後の会話をうまく拾うことが出来なかった。


でも、その代わりに───


「夏杏耶。今日も部活か?」

「うん、そうだよ」

「まぁいいけど……気を付けて帰って来いよ」

「……!? はいっ!」


生徒玄関で分かれる前。ふっ、と静かに笑う彼の表情に、夏杏耶は再び胸を締め付けた。